国魚を錦鯉に!運動高まる
「錦鯉(ニシキゴイ)を国魚に」――――自民党の国会議員が、錦鯉を国魚にするための「議員連盟」を立ち上げたことがニュースで取沙汰されていました。
結成のきっかけは、旧山古志村(やまこしむら)の村長だった、長島忠美(ながしま ただよし)元衆院議員でした。
長島忠美 元衆院議員が村長を務めていた旧山古志村は、新潟県のほぼ中央に存在し、錦鯉の産地で有名です。
この山古志の棚田(たなだ)は、すべて錦鯉の養殖の池で、美しい日本の風景としても人気の場所です。
余談ですが、山古志といえば、アルパカ牧場があることでも知られています。
錦鯉は新潟県発祥と言われています。
2004年(平成16年)10月23日17 時56分に起こった「中越地震」で新潟県には大きな被害がでました。
当然、錦鯉養殖の盛んな山古志も甚大な被害を受けました。
長島忠美(ながしまただよし)元衆院議員は、中越地震で被害を受けた新潟県を、錦鯉で地域復興を目指し、錦鯉を「国魚」にしよう、と訴えを始めたそうです。
その後、長島忠美 元衆院議員は、2017年に他界されました。
しかし、その遺志は受け継がれ、錦鯉を国魚にしようという「議員連盟」を自民党の国会議員が立ち上げました。
議員連盟が発足したのは、2019年2月7日。発足と同時に党本部で設立総会が開かれました。
連盟の名前は「錦鯉文化産業振興議員連盟」となり、発起人には、自由民主党(自民党)の錚々たるメンバーが名を連ねました。
・麻生太郎(あそう たろう)副総理兼財務相
・岸田文雄(きしだ ふみお)政調会長
・小泉進次郎(こいずみ しんじろう)衆院議員 他
そして会長には浜田靖一(はまだ やすかず)元防衛相が就任。
設立趣意書には、「国魚指定を政府に働き掛け、ニシキゴイの文化と魅力を国内外に発信する」と明記され、錦鯉を日本文化の象徴として掲げています。
会長となった浜田靖一元防衛相は「産業として海外進出を目指す」と発言しています。
この発言からしても、経済効果を狙った動きであることは明白ですね。
近年海外でも人気が上昇している錦鯉を利用し、国を挙げて海外に向けての、さらなるアピールをしていきたい考えのようです。
いよいよ日本政府主導で認定に向けて動き出した、錦鯉と「国魚」の話題。
現在では日本人より、むしろ外国人が購入したがるという、国際的にも認知度の高い錦鯉が、今後いつどのような形で「国魚」認定されるのか、注目されています。
認定方法は様々
錦鯉の認定が待望されていることが、自民党有志による「錦鯉文化産業振興議員連盟」の発足からわかりました。
そもそも国花や国鳥・国魚など、国獣と呼ばれているのもは、誰がどうやって決めているのでしょう?
国花や国鳥、国獣など、その国を象徴する生物などが、国ごとに決められているものがあります。
相撲が国技といわれる例もありますね。
こういったものは、各国によって定め方が違います。
いくつかを例にとって、見てみましょう。
認定方法は様々①例・国技
国技を例にとって説明すると「国家が特別の地位・待遇を与えるもの」「事実上、国技と扱われているもの」などが国技として扱われます。
必ずしも、法令によって定められているわけではないのです。
たとえば日本の国技と言われる「相撲」、アメリカの国技とされる「野球」は、「国技」として法令で定められていないのです。
国民に親しまれていて、かつ国の文化として重要であると思われているスポーツなので、通説では「国技」と呼ばれている、ということになります。
これが単に人気のスポーツ、ということでしたら「国民的スポーツ」となります。
日本であれば、野球やサッカーは大変人気ですが、日本発祥ではないので「国民的スポーツ」ということになります。
「国技」の場合は、「ルーツが自国にある」ということが、「国の象徴」として扱われるうえで重要になってくるポイントです。
ちなみに現在は存在しない国家ですが、1945年まで存在していた満州国(まんしゅうこく)では、発祥ではないものの、法令で定められていたので「サッカー」が国技でした。
「ルーツが自国にある」ということの、例外の事例です。
日本の場合は「国技」を法令や政令で国技を定めていません。
にもかかわらず、相撲が「国技」と言われる理由は、
①「天皇杯」を下賜されている武道であること
②神事であったこと
③相撲の常設館を「国技館」と3代尾車親方・大戸平廣吉氏が命名したこと(1909・明治42年)
などがあげられます。
「①天皇杯の下賜」「③国技館という命名」は、いずれも「②かつて神事であったこと」が理由となっていますので、相撲が神事であったことが、日本文化や精神に深い関わりがあるとされる、大きな要因です。
最近の相撲界は不祥事が多いようですが、かつては神前での神聖な儀礼だったのです。
ちなみに国技館ができたとき、相撲は「神事を放棄し国技を名乗る」ことになったそうです。
これを了承した命名委員会会長は、かの有名な板垣退助でした。
1909年6月2日の開館式で「相撲節は国技である」と披露文に記されました。
認定方法は様々②例・国花
国花の場合は、国技とは認識が少し変わってきます。
国を象徴する花には違いないのですが、発祥やルーツにこだわらない国家が多く、むしろ外来品種を選択する国も少なくありません。
また逆に、法令で「国花は定めない」とする国もあります。
国花を定める時の基準も、国によって多種多様です。
国民投票によって決まったり、その国の伝説・故事からもってくるもの、王室のエンブレムに使われている花を国花に認定するところ、などがあります。
日本では国技同様、国花を法定で定めていません。
一般的に「桜」「菊」の2つが、「国花」として取り扱われています。
「桜」は国民に広く親しまれていること、そして通貨や旅券など公式のモチーフとして用いられることが多いことも、国花として認識されている要因の一つとなっています。
一方「菊」は、皇室の家紋「十六八重表菊」に使用されているため、事実上の国花として扱われています。
実は菊は、今でこそ皇室・天皇家を示す紋として有名ですが、かつては他の家も家紋として使用していたといいます。
皇室で初めて「菊」を「皇室」の意味で使用したのは、鎌倉時代の後鳥羽上皇(ごとばじょうこう)と言われています。
日本の菊が「国花」とされるのは、「王室のエンブレムを国花に使用」という例の1つです。
国魚は決まっていなかったの?
今回、自民党によって錦鯉の国魚認定のため「錦鯉文化産業振興議員連盟」が発足しました。
しかし「国技」「国花」とは違って、「国魚」とは聞きなれない響きです。
ネットで簡単に調べてみると、すでに錦鯉を「国魚」として説明している記事もたくさんありました。
「国魚」は決まっていなかったのでしょうか。
そもそも「国魚」自体を「決めている」「通説がある」国が少ないようです。
そのため一覧表などを探すと「国魚」は「国獣」のなかに含まれてしまうようです。
「国魚」のある国は少ないですが、ちゃんとあります。
たとえば
バハマ「カジキ」
バングラデシュ「イリシ(ジギョの近縁種)」
フィンランド「ヨーロピアンパーチ」
インドネシア「アジアアロワナ (国魚)」
パキスタン「マハシール (国魚)」
フィリピン「サバヒー」
日本「錦鯉」
というようなラインナップです。
国によっては、魚が国を象徴するほどの存在でもないところがたくさんあるのでしょう。
魚ではありませんが、海の哺乳類、クジラやイルカの仲間を「国獣」としているところもありました。
鯉は、もともとは中央アジア原産ではないと言われています。
日本へも古代に中国から輸入されたのでは、と言われたこともありますが、野生の鯉の存在・第三紀の地層より化石の発見などから、古来種であるというのが現在の通説です。
錦鯉がすでに「国魚」と言われている理由は、錦鯉は「日本発祥としては唯一の観賞魚」であるという理由で、錦鯉の業界団体が「日本の国魚」として位置付けているからなのです。
はじめて「国魚」という言葉を使ったのは、1968年(昭和43)第1回全日本総合錦鯉品評会・大会記念誌の『国魚』という冊子のタイトル。
「国魚」という尊称を作ったのは、小千谷市の錦鯉問屋・錦鯉生産団体の全国的な組織化を行った、「宮 日出雄(みや ひでお)」という人物だそうです。
この方、錦鯉の品評会では「宮日出雄賞」という賞の名前にもなっています。
そんな宮日出雄氏が名づけて以来、錦鯉の業界団体によって、錦鯉は「国魚」とされるようになったのです。
いわゆるセルフプロデュースというわけですね。
それが今回、日本政府の第一政党・自民党によって「錦鯉文化産業振興議員連盟」が発足し、党本部で設立総会が開かれるという動き。
これは錦鯉が「国魚」として、法令で定められる可能性も、大いにあるということでしょう。
錦鯉は「生きた宝石」「泳ぐ芸術品」と評されます。
そんな錦鯉の発祥は、新潟県小千谷(おぢや)市~長岡市山古志(やまこし)にまたがる二十村郷(にじゅうむら)とされ、約200年ほどの歴史があります。
錦鯉が生まれたのは江戸時代、1804~1830年(文化・文政期)だそうです。
はじめは真鯉(まごい)だったそうですが、突然変異で赤やマダラの鯉が出てきたのが始まりではないか、と言われています。
突然変異の現れた個体だけを厳選し、改良を繰り返し、やがて現在のような錦鯉という「品種の確立」に至ったようです。
日本の象徴をおさらい!花から菌まで!?
さて、政治的にも「錦鯉を国魚に認定したい」動きが強まっていることは、今回の「錦鯉文化産業振興議員連盟」発足からわかりました。
ところで、日本の花や鳥、国獣として認定・認識されているものは、花やスポーツだけではありません。
明日使えるトリビアを、この機会に知っておきましょう。
国花① 桜
国花② 菊
国鳥 雉(1947年 日本鳥学会 選定)
国蝶 オオムラサキ(1957年/昭和32年 日本昆虫学会 選定)
国魚 錦鯉(1968年/昭和43 宮日出雄氏が「国魚」命名)
国石① 翡翠 ひすい(2016年9月 日本鉱物科学会 選定)
国石② 水晶(1913年 アメリカ人鉱物学者ジョージ・フレデリック・クンツが著書で決定)
国菌 麹菌(2006年 日本醸造学会 選定)
菌!国の「菌」まであるって、すごいですね!
何だか不思議です。
どの象徴も、おおむね その部門の「協会」が選定していることがわかります。
その分野の専門家たちが、記念事業などで「国の象徴となるもの」を選定しているようです。
日本の場合は、法定となっているものは「国旗」「国歌」以外は、法的に選定されたものはないようです。
こうした事例をふまえてみると、もし錦鯉が「国魚」として法的に認定された場合、異例の事態と言えるのではないでしょうか。
しかし、その中でも「国花」は、協会や誰が定めたわけでもないという、逆に特殊な事例です。
桜や菊は、よほど日本人の共通意識に根付いていると言えます。
ちなみに「国花」とも言われる「菊」のうち皇室の家紋でもある「十六八重表菊(じゅうろくやえおもてぎく)」は、「国章」を定めていない日本では、「国章に準ずるもの」として扱われます。
まとめ
錦鯉の「国魚」認定について、見てきました。
自民党をあげての「国魚」認定という動き、今後どうなっていくのか注目です。
なかには「そんなことやってないで福祉を」など、アンチの意見もあるかもしれません。
しかし今回の動きは、政治家的には「経済効果を狙った動き」のようですし、なにより前向きなニュースがあるのは喜ばしいことではないでしょうか。
錦鯉により注目が集まることによって、不正や犯罪、無責任な購入による生態系の混乱が起こらないかなど、懸念は当然出てくるでしょう。
今後の動きに注目です。