タイ王女の首相候補擁立を取り下げ!国王「不適切」争点のポイント
アジア諸国の中で、王室を保持し続けている国のうちの1つ、タイで、王族の政治関与が問題になっています。
問題になったのは、タクシン・シナワット(Thaksin Shinawatra)元首相派の政党が、タイ王女のウボンラット王女を国家維持党(Thai Raksa Chart Party)の首相候補になると発表したことです。
現在でも王族が主権を持っている国はありますし、「王室の政治関与」は国によりけりだと思いますが、そもそもタイ王室は、政治関与をどこまで許されているのでしょうか。
恋するフォーチュンクッキーで話題になったタイ王女
擁立されたタイ王女、ウボンラット王女は、どのような人物なのでしょうか。
ウボンラット王女は、故プミポン前国王の第1子として、タイ王室に生まれました。
現在のタイ国王・ワチラロンコン国王の、姉にあたる人物です。
1951年生まれなので、2019年2月現在の年齢は67歳。
ウボンラット王女は、MIT留学時代に知り合った米国人・ジェンセン氏と結婚し、3人の子供も出来て王室からは離れていました。
余談ですが、ウボンラット王女は長男・プムさんをスマトラ島沖地震で亡くされています。
王室から離れ、結婚生活を送っていたウボンラット王女ですが、後に離婚して、現在は王室に戻ってきており「王室メンバー」として扱われています。
最近では、日本のアイドルAKB48の曲「恋するフォーチュンクッキー」をウボンラット王女が歌って踊った動画が話題になり、2018年のNHK紅白歌合戦でも紹介されました。
タイ王女を擁立した理由①他政党との争い
2019年3月24日の総選挙に向けて、タクシン派の政党は、どうしてウボンラット王女を首相候補に擁立したのでしょうか。
・クーデターでできた政権の継続を止めなければならない
・王女は知識豊富で、社会活動を続けてきた
そう説明するタクシン派「タイ国家維持党」は説明しています。
2014年にクーデターが起こり、4年以上軍事政権が続いているタイで、「民政」にと向けたタクシン派の戦略です。
こうしたウボンラット王女の首相候補擁立への動きは、現在のタイ政治の仕組みが、そうさせた要因のひとつになっています。
タイ政権を民政にしたい考えのタクシン派「タイ貢献党」は、世論調査の政党支持率では首位です。
しかし総選挙では、「一つの政党が大勝できない仕組み」が採用されています。
世論調査で多くの人気を得ても、強力な発言権を占めるように、選挙に勝つことはできないのです。
そんな中、ライバル政党「親軍政政党」が、他の政党を巻き込み「非タクシン派」政権を樹立すべく、動いていました。
逆風が吹き始めた「タクシン派」は、形勢逆転をはかってウボンラット王女を首相候補に擁立した模様。
結果的にウボンラット王女を擁立したことが批判の対象となり、取りさげも検討されることとなっていますが、タイ王女擁立には、そんなタイの政治的背景があったのです。
一方、現在のプラユット暫定首相(軍事政権)も、「親軍政政党」の首相候補に決まっていました。
軍政トップのプラユット氏と、王室関係者のウボンラット王女が政党トップに担がれるという、異例の事態となったタイ国政。
政権獲得への動きが、かなり激しくなっているようです。
タイ王女を擁立した理由②王室と政党との仲
タクシン派がウボンラット王女を擁立できた1つの理由に、政党と王室との「仲」も関係しています。
タクシン氏は、前国王のプミポン氏とは関係がうまくいっていませんでした。
しかしタクシン氏はウボンラット王女とは親しい関係にあります。
2018年サッカーW杯ロシア大会には、同じスタンドで観戦する姿が目撃されていました。
擁立しようと思ったところで、不仲では実現しませんから、タクシン派とウボンラット王女は、かなり親しい関係にあったとみていいようです。
争点①政党への批判がしづらくなる
ウボンラット王女を首相候補に擁立することによって、起こりうる問題について、みていきましょう。
まず1つ目は、「政党批判がしづらくなる」ということです。
タイの法律には「不敬罪」が存在しています。
これによって「王室は批判してはいけない対象」であると定められています。
つまり、ウボンラット王女が政治家として活動した場合、政党批判などをした人物は「不敬罪」として処罰可能性が出てきます。
平和的政治が行われるなら問題はないのですが、それを利用して、排他的な政権主導が行われてしまう可能性なども、容易に想像できます。
すでに現状でも、ウボンラット王女が擁立されたことに対して、主要な政党はコメントを控えています。
ウボンラット王女が擁立されただけでも、発言に制限がかかるのですから、現在も王政を行っている国ならともかく、そうでない国政にとっては弊害や問題になる危険をはらんでいます。
争点②王女が権力の背景になり得る
さらに、ウボンラット王女がタクシン派の政党に擁立されると、政党の権力に特別な意味を持たせてしまいます。
タクシン派には「王室がついている」というメッセージにもなってしまう、ということです。
「国民国家の力党」他、親軍政勢力にとっては、不利に働く要因だという見方が多いです。
親軍政政党に対する対応策なのですから、当然といえば当然なのですが。
親軍政政党がいいのか、タクシン派がいいのかはさておいて、王室という権力は、他政党の発言や権限を大きく弱めてしまう存在であることが問題になっているようです。
各所の反応①政府官報の反応
政府官報「ロイヤル・ガゼット(Royal Gazette)」が、今回のウボンラット王女擁立について声明を発表しています。
「国王と王室の地位は政治を超越したところに存在する」
「ロイヤルガゼット」はウボンラット王女のことは批判せず、むしろウボンラット王女の公務を称賛しています。
しかし一方で、ウボンラット王女擁立をした者に対しては批判を向けています。
「高位の王室の一員を政治体制に持ち込むことは、いかなるものでも王室の伝統と国の文化に反するものであり、極めて不適切だ」
ウボンラット王女の政界進出を、背後で暗躍する者に向けたものだと思われています。
各所の反応②タイ国王の発言と真意
ウボンラット王女の弟にあたるワチラロンコン国王は、ウボンラット王女がタクシン派に擁立されたことに対して、2019年2月8日に批判する声明を出しました。
声明の内容は
・王室は政治から離れたところにいるべき
・政治にかかわることは非常に不適切
・「王室の伝統」に反する
しかし、この国王の発言や真意も、専門家でも見通せない部分が多く、今後、タイ政権がどのように揺れ動いていくのか、見通しは立っていません。
たとえばウボンラット王女が政権に関わることを国王は批判の意思を示しましたが、では軍事政権についてはどう思っているのか、などですね。
国王がどういうスタンスでこの声明を発表したのか、これは意外に重要なことだと思われますが、専門家でもはっきりとはわからない様子。
今後のタイ政権はどうなっていくのでしょうか。
まとめ
ウボンラット王女擁立は、タイの政権争いから持ち上がってきた出来事でした。
・タクシン派が軍事政権に対する巻き返しを図った動き
・王女が政治にかかわると、政治批判などは「不敬罪」になるかもしれない
・王女を擁立できたのは、タクシン氏と親しいから
・王室が政治にかかわるのは「不適切」とタイ国王は声明を批判
結局、国王の声明文を受けて、ウボンラット王女の首相候補擁立は、取り下げられました。
しかし、クーデターによる軍事政権からの脱却を目指すタクシン派の動きは、今後どうなっていくのでしょうか。
これからの動きにも注目が集まっています。